◇
――ガラッ。
教室の扉をスライドしたとたん、リョクくんとケイちゃんが駆け寄ってきた。
「エルー!どこに行ってたの!?」
「探したんだぞ!」
放課後になるまで保健室のベッドで寝かせてもらっていた。ふたりには連絡していなかったから心配をかけたかもしれない。
入る前に扉のすきまから垣間見えた。
わたしの席の近くで何度もスマホに通知がないか確認する、焦ったふたりの姿。
胸が痛かった。
痛いだけだった。
他には誰もいない教室。
きれいに整えられた机。
優しいふたりの優しくない秘密。
透けた茜色に照らされてるところまで、おとといとおんなじ。
「……なんで、ノブくんといるの?」
ケイちゃんの潤んだ眼差しがわたしの隣をなぞった。
ノブくんは今までずっとわたしに付き添ってくれていた。保健室の先生に「教室に戻っていいよ」と注意されても「イタタタ」とだます気のない嘘をついてまでわたしのそばにいてくれた。
お茶のペットボトルを飲み干してしまえば、すぐにもうひとつ買ってきてくれた。
個性強めなその優しさにはなぜだか甘えられた。
「ふたりって仲良かったっけ?」
「あっ、もしかしてノブくんがエルを見つけてくれたの!?ありがとー!」
安心してほほえみ合うふたりに、どんな表情を作ればいいんだろう。
血の巡りがとどこおって、めまいがしそう。
「そうだ!よければノブくんも一緒に帰らない!?」
ケイちゃんが残ってるから、今日は3人で。
その流れは至極自然なのに気持ち悪さを拭いきれない。
お茶もっと飲んでおけばよかった。



