「なんで逃げたの」
ふたを閉め、やわく垂れた瞳と交わる。
きれいな目。
透明がかった雨空みたい。
「いたくなかった、から」
まただ。
なぜか彼の前だとするすると本音があふれてくる。
「気持ちが、悪くて」
こんな最低な本音、言っても引かれるだけなのに。
「一緒にいたくないならやめればいいよ」
「……え、」
「おれを言い訳にすればいい」
ノブくんは表情ひとつ変えなかった。
引かないの?
おととい初めて会話したわたしなんかを、肯定してくれるの?
どうして。
「で、でも……」
「それなら誰も傷つけない。友達さんはおれのこと別に好きじゃないし」
あまりに淡々としていて、わたしのほうが動揺してしまった。
「知って……」
「そりゃね。3人でいるとこ見れば気づくよ。あれは好意じゃなくてミーハーなだけ」
そっか、なんだ。外から見たらわかりやすかったんだ。時間の問題だったんだね。
キスシーンなんか目撃する前に気づけたらよかった。
気づいていたら、気持ち悪さを感じずに済んだのかな。
「今日もあいつと一緒に帰んの?」
こてんと顔をななめにしたノブくんは、案じてくれてるのかわからないくらい気だるげで読めない。
だけどそれがちょうどいい。
楽になれた。
「ほんとに言い訳に使ってもいいの?」



