「ありがとう」



お礼をずっと、言いたかった。

でも、言えなかった。


彼らに言えてないこと、たくさんある。

ありがとう、って言いたい。

守ってくれてありがとう、って言いたい。

3人が大切で、大好きなんだ、って言いたいのに。


涙があふれて言葉にならない。

手で涙を拭ってもあふれてくる。


この涙は、温かい涙だった。



「茜」



神崎くんに名前を呼ばれ、顔を上げる。

涙でぼやけて、神崎くんの顔がはっきり見えない。

そう思っていると、思い切り抱きしめられた。



「俺らに危害を与えないために、茜が離れていったのは分かっていた」



神崎くんの予想外の言葉。

私の考えは……、見透かされていたんだね。



「過去と向き合うのも、過去から逃げるのも、茜の勝手だけど」



私を抱きしめる神崎くんの力が強くなった。



「俺から逃げられると思うなよ」



その言葉を理解するまでには時間がかかった。


耳元で囁かれた、その言葉は力強くて。

優しくて。

私の鼓動を加速させるのに十分だった。


涙も止まってしまった。

顔が熱くなる私。


そんな私から神崎くんを引き剥がしたのは涼だった。