「……茜、帰るよ」



神崎くんが、お父さんの手を振り払って私の腕を引っ張る。

突然の出来事に、頭と体がついていけず、転びそうになる。


それを支えてくれたのは涼だった。

千秋くんも神崎くんに便乗したのか私の、ブラウスの襟を掴んで引っ張る。


苦しいんですけど!?

しかもここ、一応社長室なんですけど!?

なんで私、彼らに引きずられるようにドアへ向かっているんですかね!?


そんな私たちの姿を、声を上げて笑って見ている神崎くんのお父さん。



「ルームシェア、楽しむんだよ」



その言葉が、とても嬉しかった。


そう感じたのは、私だけじゃなくて彼らも同じだ。

ピタッと動きが止まる。

そして3人同時に私から手を離す。


急に離されますとね!?



「いたっ!」



バランスを保てず床にドスンッと転んだ。

痛いし、恥ずかしい。

なのに、彼らは私の存在を無視しているかのように、いたわりの言葉をかけてくれない……と、思ったら。



「ありがとうございます!」



彼らは、お父さんに頭を下げていた。

私も立ち上がって、感謝を込めて頭を下げる。



「早く帰りなさい。日が暮れてしまう」



神崎くんのお父さんの温かい言葉を背に、社長室を出る私たち。



「蓮。……父さんは、お前を認めている」



神崎くんの背中に向かって放たれた言葉は、神崎くんにしっかりと届いていた。