「神崎 蓮……。こちらに居ますか?」



涼が慣れていない敬語を使う。



「いえ。いらっしゃいませんが、なにか御用でしょうか」

「神崎社長とお話したくて」



千秋くんは今にもカウンターに乗り出しそうだ。



「社長は外出しております」



頑なに、神崎くんとお父さんの居場所を教えてくれない。

学生服姿の高校生を、簡単に案内してくれるとは思わないけれど。

それでも、ここで引き下がるわけにはいかない。


私は1歩前に出る。



「穂村 茜、と申します」



私は受け付けのお姉さんに頭を下げる。



「突然押しかけてしまい、申し訳ありません」



私も慣れない敬語を必死に引き出す。

そして頭を上げて、にこり、と笑顔を作る。



「私と取り引きをしませんか?」

「え?」



受け付けのお姉さんの笑顔が少し崩れる。

涼と千秋くんも驚いた様子だ。



「お姉さん、今日……。合コンに行かれるんですよね?」

「なんでそれをっ!」



引っかかった。

お姉さんも“しまった”という顔をしている。