「俺の父さん、不動産屋の社長をやっていて。今住んでいる家も、父さんが貸してくれている」

「そうだったんだ……」



初めて聞いた事実。

今まで考えたこともなかったけど、あの家は、神崎くんのお父さんが貸してくれていたんだ。

そう思うと、住ませてもらっている身として、知らなかったことが恥ずかしい。



「茜が転校してきた日、父さんに呼び出された」

「え?」

「3人で呼び出されたから、なにかと思ったら……」



そこで、神崎くんは話すのをやめた。

神崎くんが立ち止まるから、私も立ち止まる。

神崎くんの視線の先を見れば、ケーキ屋さんの入り口だった。



「あ、着いたね……」

「うん」



神崎くんがケーキ屋さんの中に入っていく。

私も慌てて、お店に入る。


レジの前で神崎くんが店員さんに話しかける姿は、可愛いお店の中に立っていても違和感がない。

可愛いお店を、引き立てるようかのように、神崎くんは凛と立っている。


私はその姿を、ぼーっと眺めていた。

我に返ったのは、神崎くんが注文していたケーキを受け取って、ポケットから財布を出したとき。