「ちょ、ちょっと!?」


そいつは自分で割ったガラスで血まみれになりながら、何かを抱えている。


身長190cm。色黒でピアスをあけたオラオラ系男子。


手にしていたスマホからは「ハッピバースデートゥーユー」の音楽が流れている。


「メイ! 誕生日おめでと!」
男はドスのきいた低い声で言う。


見た目は目が合うだけで殺されそうなほど怖いのに、手にしていた箱からは、小さくて可愛い誕生日ケーキが出てきた。


「ちょっと師匠…」


男の名は、高嶺一示(たかみねいちじ)。


一言で言えば、私が裏社会で生きるうえで、色々と教えてくれた師匠だ。


そして関東最強の暴走族“不知火(しらぬい)”の元総長でもある。


「どうだ。驚いたか?」


「いや……はっきり言って毎年迷惑してます。あと止血してください」


記憶をなくした私にも誕生日はある。


六年前の今日。道で餓死しかけていたところを、一示さんに拾ってもらった日だ。