揚羽はその日、ようやく久保井が柑愛に名刺を渡しているのを目にした。

あれから田中専務は仕事が立て込んでいるらしく、しばらく顔を出せないとの事で。
久保井もここ1週間は来店してなかったため…
先行きが不安になっていた揚羽だったが、ほっと胸を撫で下ろす。


「柑愛ちゃん、やっと名刺もらえたみたいね。
約束通り、ちょっと確認させてもらえる?」

「えっ…
まだもらってないですけど」

「えっ?
でもさっき、もらってるとこ見たわよ?」

「あれは…
面白い名刺を見せてもらってただけです」

軽く目が泳いだのを…
揚羽は見逃さなかった。


「…ふぅん。
じゃあもらったら、ちゃあんと教えてね?」
口元に笑みを浮かべながらも、目で訴るように見つめると。

柑愛はすぐに視線を逸らして、ペコリと背を向けた。


「あ、あと。
久保井さんには気をつけてね?」

振り向いた柑愛は一瞬怪訝な顔を覗かして、再び会釈をして去っていった。


ちゃんと釘を刺したのに、もう久保井に絆されちゃった?
柑愛が嘘をついてると睨む揚羽。

まぁいいわ。
連絡先を入手するまで、このまま泳がせとくか…