「聡子さん、こっちです!」

鷹巨は近くのアトラクション前にいて、揚羽に気付くとそう手をあげた。


「すいませんっ。
あの家族連れのお父さんが、僕より青ざめてる感じだったんで譲っちゃいました。
すいません、聡子さんまで立たせちゃう事になって…」

「…ふふっ。
私は全然構いませんよ?」
揚羽は素で吹きだした。


お姫様扱いすべきターゲットに不便をかけてまで、なんの得にもならない男性を気遣うなんて…
そこはせめて「あの子供が」と嘘をついて、子供好きアピールからの結婚願望をほのめかす所じゃないの?

と、優しくて間抜けな結婚詐欺師を微笑ましく思ったのだ。
もっとも、表の顔で詐欺をするつもりならばの話だが…

とはいえ、詐欺でないなら何なのだろう?と怪訝に思う。
コーヒーかけられて一目惚れしたとも思えないし…


「それにしても、聡子さんがホラー系平気だとは意外でした」

「ふふ、子供の頃は怖かったんですけどね」

ホラーハウスで泣きじゃくって、父親に抱っこされて脱出したのを思い出す。