【0】……


だけど逃亡当日。
待ち合わせた駅のホームに、少年は来なかった。


少年は義父の都合で携帯電話を持てず。
連絡はいつも公衆電話から、少女の携帯にかかってくるのみだった。

ずっと秘密基地でこっそり会うだけで、他に何の接点もなく…
終電を見送ると、少女は秘密基地で待つしかなかった。

冬の凍てつくその地下室で、何日も何日も…


けれど、どれだけ待っても少年が現れる事はなかった。



そして後日、婚姻届に書かれた住所を訪ねると…
「息子とはとっくに縁を切った」と一蹴される。

せめて手掛かりをと縋ると…
友人と映った写真を渡され、絶句する。

それは全くの別人で…
その瞬間、少女は悟った。


成りすましによる、結婚詐欺にあったのだと。

恐らく自分は、彼にとって都合のいい遊び相手で…
遺産の話をした事で詐欺対象になったのだと。



でも少女にとっては、少年が全てだった。

希望を与えてくれた人だった。
愛を教えてくれた人だった。


なのに最後は何もかも奪われて…
絶望を与えられて、憎しみを教えられたのだった。