「いらっしゃいませ、田中専務。
今日は突然、どうされたんですか?」

「いや揚羽ちゃんを驚かそうと思ってサプライズしたんだよ」

「そうなんですかっ?
もぉ、やられました。すっごく嬉しいですっ」

「良かった良かった。
今日は後で若いのも来るから、よろしく頼むね。
あ、僕には負けるけどいい男だから、浮気しちゃ駄目だよ〜」

「やだ、私が田中専務の事大好きなの知ってて、そんな事言うんですかぁ?」

「ははは、一本取られたなっ」

田中専務とは、揚羽の表の仕事である高級ラウンジの指名客で。
後で来る男とはゴルフコンペで知り合ったらしく、それを機に田中の物産会社で大量注文してくれたそうで…
以来、懇意にしているとの事だった。


「おお来た来た、久保井くん!
先に始めさせてもらってるよ」
そう手を挙げる田中の視線の先を…

目にした途端。
揚羽の心臓はドクン!と弾けて、ぶわりと騒めき始める。


「いえもう全然っ、遅くなってすみません」

その声は…
久保井という名は…

そしてそのミステリアスなシャム猫のような風貌は…
あの頃より大人びてはいたものの、当時の面影をありありと残していて。