仁希の気持ちを考えると。
望の気持ちを考えると。
さらには、仁希の生存の可能性を考えると…
どうしても、望を抱くわけにはいかなかったのだ。

万が一、仁希と望が一緒に生きれる日が来た時。
もしくは、こんなふうに真実を知った時。
自分とそんな関係になった事を、望に後悔させたくなかったのだ。


もちろん自分の気持ちも…
望の負担にならないように、伝える気などなかった。

いなくなるかもしれない状況なら、尚更。


「だったら生きててくれるだけでいいからっ!」

「泣くなよ」
俺なんかの事で…

「いつ死んでも、いい人生、つったろ?
やっと楽んなれて、せいせいするよ」
最後に、望が責任を感じないようにそう言うと。


「ほんと、クソみたいな、人生だったけど…」
望の顔に、震える手を伸ばしながら。


アンタと過ごした時間は幸せだったよ。

そう続く言葉を、微かな笑みで飲み込んで。


親指が、拭おうとした涙に触れた瞬間。
その手がぼとりと床に落ちた。


「いやだ倫太郎…
ねぇ起きてよ倫太郎っ…
ねぇお願いっ、起きて倫太郎っ!
1人にしないで(・・・・・・・)!!」



マンションの外では、救急車のサイレンが鳴り響いていた。