虹色アゲハ

「っ、笑えるわね。
仁希の価値がわからないなんて。
そんな人間に傷付く必要なんかないわ。
私にとっては、自分の全てだった存在なのよ?」

すると仁希は思わず固まって…
切なげに笑った。


「俺も望が全てだよ。
あの頃からずっと…」

その言葉に、ぎゅううと胸を掴まれて…
泣きそうになる望。


「じゃあどおしてっ…」

「駅には行ったよ!
ほんとに結婚するつもりだったんだ」

「嘘っ!
あの戸籍は別人だったじゃないっ」

そう言われて、一瞬怯んだ仁希を前に…
さっきからどこか違和感を感じていた望は、それが不信感に変わりかけると。


「ん…
俺さ、無戸籍なんだ」

「無戸籍?」

「そう。
そんな親だから出生届も出してなくて。
義父もその方が都合いいからって、そのままで」

「そんな…」


それは日本でも年間3000人、1日に8人以上発生しているらしく。
珍しい事じゃないと聞きながら…

だから仁希を調べても、何の情報も得られなかったのかと腑に落ちる。


ちなみに久保井という名は、実際あの秘密基地の近くに住んでいた少年の苗字で。
仁希という名は、義父に捨てさせられた本名だが漢字はなく。
不憫に思った祖母が、亡くなる前に当てがってくれたものらしい。