「うまっ!
薄味なのにこんな旨いとか…
望、料理上手なんだなっ」

「やめてよ。
透析患者用の分量とかわかんなかったから、ググってレシピ通りに作っただけだし」

その調理の最中…
腎臓が悪かったから、あまりお酒を飲まなかったのかと合点する。


「レシピ通りでも、作る人の技量で全然違うよ。
ほんと、めちゃくちゃ旨いし。
ずっと望の手料理を、食べたくて仕方なかったからさ…
これでもう、思い残す事もないかなって」

「バカな事言わないでっ。
私が絶対、どんな手を使っても逃してあげるわ」

「望…
ごめんな。
俺、あんな酷い目に遭わせたのに」

「そう思うなら、何もかも正直に話して。
どうして私を騙したの?」

「…騙すつもりなんか、微塵もなかったよ。
まぁ、結果的にそうなったけど」
仁希は悲しげに微笑して…

ゆっくりと話し始めた。


「俺が義父に育てられてたの、覚えてる?
その義父が、今逃げてる組織の幹部なんだ」

「え…
そんな昔から組織にいたのっ?」

「ん…
本当の親は、デタラメな人間でさ。
金欲しさに売られたんだ。
それも、だった数万で…
笑えるだろ?
俺の命なんか、数万なんだってさっ」

思いもよらない事実が、望の胸に突き刺さる。