週末。

〈今日、仕事が終わったらそっちに行くわね〉

事前にそう連絡していた揚羽は…
その時間を迎えると、待ち遠しい気持ちで鷹巨の家に向かった。

組織と折り合いをつける時間を装い、一週間近く日を空けていたため。
早く足を洗った報告をして、喜ぶ顔が見たかったのだ。


すると、店用の携帯に公衆電話から着信が入り…
怪訝に思いながらそれに出ると。

『もしもし揚羽ちゃん?』

その声はまさかの久保井で…
瞬時に胸が攫われる。


揚羽からしてみれば…
もう無理だと思った相手が。
鷹巨のためとはいえ、諦めた相手が。
この土壇場で現れて…

まるで教会から攫われる花嫁のような、ドラマティックな錯覚に襲われる。


だけどすぐに。

「今さら何の用?
悪いけど、」
そう撥ね退けようとした矢先。

『追われてるんだ、かくまってくれないかっ?』
その言葉に…

ー「追われてんだろ?かくまってやるよ」ー
かつての記憶が、ぶわりと甦り。

心臓が激しく揺さぶられる。


「…っ、どういう事?」

『実は俺、かなり大きな組織の一員で。
足洗おうとしたんだけど、無理みたいで…
今逃げてるとこなんだ』