予防線。それが何を意味しているのかわからないし、知りたくもない。


「それに、乃々に近づくような男がいたら消すから平気」


 “にっこり”と効果音がつきそうなほど胡散くさい笑みを浮かべた京壱に、我が弟ながらゾッとした。


「……あっそ」


多分、これ以上聞かないほうがいい。

知らぬが仏、とはよく言ったものだ。

昔からとんでもなかったからな……。

正直、何度かこいつとは血が繋がってないんじゃないかと疑ったことがある。

そう思うくらい、こいつの、この狂愛じみたところが理解できなかった。

でも、莉子と出会ってから少しだけわかった気がする。

莉子に近づく男は片っ端からいなくなればいいと思うし、莉子に向けられる視線にさえ嫉妬してしまう。

だから、今なら間違いなく言いきれる。

京壱と俺は、紛れもなく血の繋がった兄弟だ。


「あ、俺このあと乃々と出掛けるからそろそろ帰るよ」


腕時計を見て、カバンを手に持った京壱。


「ん。お幸せに」

「兄さんこそ。また詳しく聞かせてよ」


そう言って、笑顔で手を振って出ていった。