宇佐美くんの口封じ





私はそんな気持ちを抑え、卵焼きに箸を伸ばす。


今日は上手く巻けたと思う。

お母さんから教えてもらった甘い卵焼き。高校1年生の時に初めて教えて貰って、それからは卵焼きだけは毎日自分で作るようになった。




上手く巻けたそれを箸で挟み、口へ運ぼうとしたとき。




「ね、せんぱい見てあれ」

「ん?……あっ、ちょっと!」

「ん。美味、」




パクリ。

箸の間にしっかり挟まっていたはずの卵焼きは、私が声につられて目を離した隙に宇佐美くんの口の中へ逃げていってしまった。



「余所見してる方が悪いですね」

「…っなにそれ!」





食べたいなら食べたいって言ってくれたら別に卵焼きくらいあげるのに。私はそんなに意地悪な人間じゃないし。

宇佐美くんが「あれ見て」って言うから見たのに、ただただ青空が広がってるだけだったし。




「美味しかったです」

「…そりゃどうも」

「また作ってきてくださいね」




だけど、宇佐美くんがそう言って小さく笑いかけてくるから。

卵焼きくらいならまた作ってあげても良いかな…って思ったり。