「大丈夫ですか?染みる?」

「…っ、い、たくない…うっ」

「…なんで嘘つくんですか。…でも血出てるし消毒しないとだから、…我慢して」

「…うぅ…、」




保健室についてベッドに座らされる。

今日も今日とて適当な保健室の先生は不在で、宇佐美くんが手当をしてくれている。



この状況は2回目だ。

…あの時も同じようにおんぶされて、同じようにベッドに座らされて、……それで、麻央ちゃんが来たんだ。



もう遠い昔のように感じてしまう。


あの日の私の選択は自分を守るための逃避行だったんだと、宇佐美くんを好きだと自覚した今なら分かる。


『元に戻ろう』なんて言わなければ、今も宇佐美くんと仲良くできていただろうか。



気まぐれで教室に顔を出して、「屋上でご飯食べましょ」なんてほぼ強制的に連れていかれて、気づいたら卵焼きを取られていたりしたかもしれない。


そうしているうちに、宇佐美くんのことを『依里くん』って、自然に呼べるようになっていたかもしれない。




宇佐美くんと私の"普通"は、私が手離してしまった。