頭では色々考えるくせに、何一つ言葉にならなかった私。
そんな私を他所に、彼は立ち上がると制服に着いたホコリを払った。




「じゃ、またね。雨宮せんぱい」





彼はそう言って、背を向けて音楽室を出ていった。


取り残された私は1人、宇佐美くんの唇の感触を思い出して頬を染める。






……私のファーストキスは、こうも呆気なく宇佐美くんに奪われてしまった。


やっぱりすごい綺麗な顔してたなぁ、とか。
明日からの部活、どんな顔してればいいのかなぁ、とか。

……ていうか、『よく見ると可愛い』って冷静に失礼すぎるでしょ、とか。




宇佐美くんの匂いが残ったままの音楽室で、そんなことばかりを考える。









"みんなの宇佐美くん"は、遊び人。



そんな宇佐美くんの口封じは、びっくりするくらい甘かった。