悪い夢を見ているのだと信じたかった。







背中にひんやりと固い感触。

もうこれ以上、私に逃げ場はなかった。



近づいてくる顔は、遠くで眺めているよりもずっと綺麗。

うっかり見とれてしまいそうになる気持ちを抑え、私は必死に目を逸らす。





「ね、雨宮(あまみや)せんぱい」

「…っな、何も見ていません…私は何も見ていないのです…」

「だからなんなんですかその嘘は」

「気のせいですきっとっ、」

「こっそり見てるなんて良い趣味してますね?大人そうな顔してさ」

「…っ、だ、だってまさか、」







───まさか、宇佐美(うさみ)くんがいるなんて思わなかったから。