碧さんの戸籍が出来上がったのは、夏の盛りに差し掛かった頃だった。

「江波さん、戸籍ができました。
 名前は『海野 碧(ウミノ アオイ)』です。」

嬉しそうに碧さんが俺にお礼を兼ねて電話をしてきた。

「良い名前だね、碧さんに似合ってるよ。」

聞いて直ぐに碧さんにピッタリの名前だと思った。

「そうですか。
 名前は蒼さんがつけてくれたんです。」

ただ、名付け親は氷室蒼だと聞いて、こんなにピッタリな名をつける程
碧さんの事をよく見ていたのだと思うと、いくら兄のような存在だと思って
はいても心穏やかにはいられなかった。



碧さんと話してから数日が経っていた。

戸籍も出来上がった今となっては、なかなか碧さんとの接点が掴めない
ことに苛立ちを覚えながら業務をこなしていた。

メールや電話で気軽に連絡してみれば良いだけなのかもしれないが、ヘタレ
の俺にはその一歩が踏み出せなかった。

相棒の安藤 久美子(アンドウ クミコ)は、いつも笑顔で落ち着いている
俺が、いつもと違うことに不信感を募らせ聞いてきた。

「江波さん、最近なんかイライラしてませんか?」

「そ、そうかな?安藤の気の所為じゃないか?」

「そんなことないです。
 絶対何かあります。
 一人で抱え込まないでくださいね。
 いつでも話聞きますから。」

「ああ、何かあったら頼むな。」

後輩にこんなこと言われるようじゃダメだな。

俺は自分の頬をバシっと叩いて気合を入れ直した。