このところ、碧が何かを考えている気はしていた。

でも、普段通りに笑みを見せる碧にそのことは俺の頭の中から
すっかり忘れ去られていた。

まさか、碧がここを出て行こうと考えていたとは・・・。

碧の言葉は俺にとって、青天の霹靂だった。


あまりのことに俺の口から出た言葉は「誕生日まで待って」
というその場凌ぎとも取れないような言葉で・・・。

自分の不甲斐なさを身をもって実感した。


俺は、また作業部屋に戻ると、ここ数か月いつも持ち歩いて
いたスケッチブックを開いた。

その中は、碧の画で埋められていた。

転寝している碧、洗濯ものを干す碧、穏やかな笑みを向ける碧
一筋の涙を流す碧・・・。

どれもこれも俺と碧、二人の暮らしの中で今まで俺が目にして
きた碧の姿だった。

そして、スケッチブックに碧の姿が増える毎に、碧は俺の中で
離し難い愛おしい存在へと変わっていた。

「よし・・・。」

俺は一つの決意と揺るがない想いを胸に、布に覆われた画の前に
立った。



俺の手には、一人の愛おしい女を想い作った『青』

それを目の前のキャンバス一面に勢いよく筆を滑らせ塗りつぶして
いった。


ひとつの別離と、希望する未来を願って・・・