俺は久々にいつも世話になっている画商との商談が上手くいって
機嫌よく碧への手土産に美味いと評判の洋菓子店でケーキを買う
と、意気揚々と玄関のドアを開けた。

すると、玄関の脇に一人ポツンと座る碧がいた。

俺が家を出る時には、いつものように穏やかな笑顔を向けていた
碧だったが・・・・今、目の前にいる碧からは微塵も感じられない

この短時間に一体何が起きたのか・・・。

「・・・ただいま。」

「お、おかえりなさい。」

そう言いながらも碧の目は落ち着きなく、そして申し訳なさそうな
顔をしながらも覚悟を決めたという感じで、オズオズと口を開いた。

「あ、あの・・・実は・・・たまたま作業部屋のドアが開いていて
 悪いとは思ったんですけど、部屋を覗いたら沢山素敵な画があって
 気がつくと中に入っていました・・・。
 それで・・・あの・・・ベージュの布の掛けてあった画があって
 ダメだとは思ったんですけど・・・見てしまいました。
 大事な画だったんですよね・・・・ごめんなさい。」


「・・・そうか、見たのか・・・・。」


碧のすまなそうな顔を見ていると、画を見られたことに怒りなどは
湧かず、不思議と見られたのが碧で良かったと思う自分がいた。

そして、碧に自分の過去を聞いてほしいと思った。

「碧、コーヒーでも飲みながら俺の話を聞いてくれないか?」

俺は碧にそう声を掛けると、リビングに向かった。