病院から退院して大分経ったが、私の身元は依然として分からない
ままだった。

時々、刑事の江波さんがその報告と共に家に顔を出していた。

江波さんからの紹介もあって、私と蒼さんで弁護士の先生と一緒に
戸籍の取得のために動いていた。

家庭裁判所にも何度も蒼さんと一緒に足を運んだ。

蒼さんは、嫌な顔もせずにいつも付き添ってくれていた。

そうした、皆の協力の元、私の戸籍が出来た頃には、セミの鳴く
汗ばむ季節に変わっていた。

新しい戸籍には、
海野 碧(ウミノ アオイ)、3月25日生まれの25歳』
と表記されていた。

名前は、蒼さんがつけてくれた。

何でも、私のイメージは『海』なんだそうで、そこから海野という
苗字を考えたらしい。

誕生日は、私が助けられた日。

年齢は、中川さんから大体このくらいの年齢だと予想されるという
話を聞き、決定した。

それまで、何処の誰かも分からず不安だった私に、ここに居て良い
んだと、海野碧として存在して良いんだと言ってもらえたような
気がした。


海野碧となってからも私の生活は変わらなかった。

蒼さんと一緒に過ごし穏やかに過ぎていく。

毎日、朝、昼、晩の食事に掃除、洗濯。

週に二回は、食料の買い出しやショッピングを蒼さんの愛車に乗って
一緒に行き、帰りは二人でドライブする。

蒼との暮らしが、今の自分の当たり前の日常だった。