名前と共に俺に伝えられたのは、もっとショックな事実だった。

「後、私ここを退院したら蒼さんのお宅でお世話になることになったんです。」

「そ、そうなんですか!?」

「はい、行くあてのない私を心配して空いてる部屋に住まわせてくれるのと
 蒼さんの家の家政婦さんとして働く事になりました。」

嬉しそうに話す碧さんにやりきれない思いが込み上げる。

だが、今はまだ碧さんにとって俺は捜査報告を知らせてくれる一刑事でしか
ない。

丁度その時、病室の扉がノックされ氷室蒼が入って来た。

「あ、蒼さん!」

碧さんの嬉しそうな顔に、また俺の心がギュッと掴まれる感覚がした。

「刑事さん来てたんですか。
 どうですか?その後、碧の身元に関する情報はありませんか?」

「はい、今のところ変わり無しです。
 ところで、俺から少し提案があるんですがいいでしょうか?」

「提案とは?」

「今後の生活を考えると戸籍がないことは大変だと思います。
 なので、戸籍を取得してはどうかと思うんです。
 考えが決まったら良い弁護士を紹介するので、連絡をください。」

そう言って自分の名刺を氷室に渡した。

少しでも碧さんとの接点を持ちたかった俺の咄嗟に出た、苦肉の策だった。

「確かにそうですね。
 退院して落ち着いたら碧と話してみます。
 お忙しいのに、お気遣いありがとうございます。」

氷室は俺の下心には気づかない様子で、頭を下げていた。