女が目を覚ました翌日、朝早いうちから俺は病室を訪れていた。

女は俺の姿を見ると顔をパッと綻ばせた。

その様子に、冷えていた心に小さな灯がポッと灯った気がした。

「お・・・おはようございます。」

まだ、小さな掠れ声だが、昨日と比べれば大分声が出るようだ。

「おはよう、調子は?」

「・・・大分良いです。」

「もう少しで警察の人が来ると思うけど、俺も一緒にいるから」

「あ、ありがとうございます。」



それから10分程で、部屋のドアがノックされた。

先ず顔を見せたのは、中川、そして後ろにスーツを着た男女。

「おはようございます、警察の方をお連れしました。
 ベットにいる方が、記憶をなくされている今回の患者さんで、
 隣にいる方が、第一発見者の方です。」

中川がそう言うと、後ろにいた二人が前に出てきた。

「おはようございます。
 生活安全課の江波(エナミ)安藤(アンドウ)です。
 詳しいお話を聞かせて頂けますか。」

いかにも人の好さそうな好青年風の男性刑事が声を掛けてきた。

女は不安そうにしながら、隣に立つ俺のジャケットの裾を掴んで
きた。

その姿に、何にも興味も関心もなく、10年前に閉ざされてしまっ
ていた感情の扉が少し動く。

そっと、裾を掴む手に自分の手を重ね、女に向け微笑むと俺は、
女を発見した状況と病院までの経緯を順に説明した。

江波という刑事は、
「捜索願いが出されていないか調べ報告します。」
と言い安藤という女の刑事と帰っていった。