次の日、俺は何も言ってないのに蒼は病室に顔を出していた。

そして、彼女が目を覚ました。

蒼を病室に残し診察していくと彼女には記憶がなかった。

俺は彼女に一つの提案をした。

「あなたの状態ですが、外傷などはありません。
 声は時間と共に元に戻るでしょう。
 問題は体の衰弱が激しいのと、記憶を失っていることです。
 何も分からない中、一人は不安でしょう。」

俺の言葉に彼女は泣きそうな顔を俺に向けた。

「先程、あなたの病室にいた男は私の友人で、あなたが海で倒れている
 のを発見して助けたものです。
 多分、あいつはあなたの助けになるような気がします。
 今の状況をあいつにも話して協力してもらうのは、どうでしょう?」

女は頭をコクンと下げ同意の意思表示をした。


病室に戻り待っていた蒼に今の状況を話すと、俺の予想通り彼女の力に
なってくれるという。

やはり、今までの蒼とは何か違う。

人を寄せ付けないように過ごしていたのに、彼女に対しては自然と受け
入れている。

そして、蒼自身はそんな自分の変化に気づいていないようだった。

やはりこの二人の出会いは、蒼を心の闇から救う希望なのかもしれない。


俺はこの名も知らぬ彼女に一縷(イチル)の望みを託した。