「蒼、俺はお前の人と成りを知っているし、信用している。
 第一発見者というのもあるし、できたら、彼女の力になって
 欲しいと思う。
 いいだろうか?」

「・・どういう事だ?」

中川は、フ~と一息つくと検査の結果を話し出した。

「彼女は記憶がない。
 自分が何処の誰で、何と言う名前かも分からないそうだ。
 何故、あの砂浜にいたのかも分からないとのことだ。
 所謂、記憶喪失ってことだ。
 そうなると、身寄りも頼る人もいない現状だ。
 このままだと、何処かの施設に行くことになると思う。」

「施設・・・。」

「彼女の声は、明日、明後日にはだいたい戻るだろう。
 一時的に声が出にくくなっているだけだ。
 明日には警察も状況を確認に来ることになっている。」

「そうか・・・。」


話を聞いた上で、改めて女を見た。

歳の頃は20代の中頃か、顔色はまだ優れないが美人の類に入る
容姿だということに気づく。

目には怯えと寂しさ、そして困惑。


じっと見ていると、女と目が合った。

女は縋るような目を向け俺のシャツの袖を握りしめ俯いた。

そんな女の様子に、自然と俺の手は動き、女の頭を大丈夫だという
思いを込めて撫でていた。


「明日、警察が来る時に俺も立ち会うから。
 今後の事は、その時に話合おう。
 俺に何ができるか分からないが、力になろう。」

俺がそう言うと、女も中川もホッとした顔をして微笑んだ。