はあ。
 どうしよう。母さんからの罵倒を聞いて、余計死にたくなってしまった。母さんに自殺を止められたくて、わざわざ病院まで会いに来たのに。
 本当に自殺してやろうか。

 俺は奈々達が悲しむことを、死なない理由にはできない。だって俺が死なない限りは、あるいは俺か母さんのどちらかがこの世からいなくならない限りは、虐待の日々は終わらないと思うから。

 くそ。
 ……自殺をする日くらい、優しくされたかった。

「ごめんね」って、泣きながら謝って欲しかった。

「愛してる」って言って、抱きしめて欲しかった。

「私の可愛い空我」なんて言って、頭を撫でて欲しかった。

 演技でもいいから、優しくされたかったなあ……。

「話は終わり? じゃあ私はもう行くわよ。鍵は空いていたら、看護師の人が勝手に閉めてくれるから」
 口を閉じて涙を堪えている俺を見ながら、母さんはいった。

 母さんが病室のドアの鍵を開ける。

 病室を出て行こうとする母さんの服の裾を掴もうとして、やめた。服を掴んだだけで、睨まれる気がしたから。


 母さんが病室を出ていった瞬間、張り詰めた糸が切れたかのようにどっと涙が溢れ出した。

「うあ。嗚呼、ああああああぁぁ!!!」
 声が枯れる勢いで、赤ん坊みたいに泣き喚く。

 ありきたりな言葉ではとても言い表せないようなそこはかとない絶望と、自分への失望が俺を襲う。

 こんなに傷つけられるまで、母さんに愛を求めていた自分に嫌気がさした。
 そして、絶望した。母さんの俺に対する扱いに。

 玩具なんて、道具なんて言うくらいなら、なんで俺を産んだ。なんで、会うたびに気が済むまで暴力を振るう。なんで、家から追い出す。そんなことをするくらいならいっそ、母さんの手で、俺を殺してくれよ。俺はあんたが気まぐれにうさぎのストラップをくれたり、怪我の手当てをしてくれたりして、中途半端に優しくするから、あんたがそうするたびに期待して。今日は暴力を振るわれたけど、明日は優しくしてくれるかもって、ずっとそう思っていた。そうならないなら、そうならないってちゃんと説明してくれよ! でないとわからない。こっちはあんたの虐待の傷があるせいでろくに学校にも行けてなくて、教養なんて少しも身についてないんだから。言ってくれないと、わかんないんだよ!

「はあ」
 涙を拭いながら、ため息を吐く。

 どんなに袖で拭っても溢れ出す涙は、留まることを知らない。涙が流れるたびに、俺は自分の惨めさを実感した。

 涙が枯れ果てるまで泣いてから、俺は病室を出た。

 母さんは今頃、俺の悲鳴を聞いた同僚の医者や看護師に、必死で嘘をついている頃だろう。そんなことを考えていたら、余計死にたくなった。
 虐待がバレるのが嫌なら、そもそも俺が泣く原因を作らなければいいのに。