宗ちゃんママの言葉に、私はあることを思い立った。



「あ、あの……私が持っていきましょうか……?」

「え?」



驚いたように目を見開いて、私を見る宗ちゃんママ。



「きょ、今日放課後、宗ちゃんの大学の近くに行く用事があるから、そのときに……」



咄嗟に嘘をついてしまったけど、会いに行く口実が欲しかった。



「いいの?」

「は、はい!」

「ありがとう、藍ちゃん。それじゃあ、お願いしようかな」



やった……!と、こっそりガッツポーズをする。

宗ちゃんママ、嘘ついてごめんなさい……!

でも、ちゃんと届けるからね……!

心の中で、先に謝っておいた。


宗ちゃんの忘れ物というのは、大学で配られるプリントのファイルだったらしい。

レジュメ……?とか言ってた。

放課後になると、宗ちゃんママから渡された袋を持ってすぐに宗ちゃんのもとへと向かった。

今日は高校の授業が6時間目まであったから、大学には行かず、直接アパートに行く。

授業は午前中心になってるって言ってたから、きっともう終わってるだろうし……家にいる確率のほうが高いと思うから。

事前に連絡したらいい話だけど、驚かせたいので連絡はしていない。

宗ちゃんのアパートに着いて、共用玄関のインターホンを押した。

えっと……部屋番号は105号室だ。

押してみるも、応答がない。

あれ?



「いない……」



……留守なのかな?

今の時刻は5時過ぎ。うーん……もう少しだけ待ってみよう。

そう思い、共用フロントの前で時間を潰す。

数分して、向こうから歩いてくる人影が見えた。



「あっ……!」



宗ちゃん……!と、誰……?

見えたのは、宗ちゃんとその友人らしき人たち。

宗ちゃんは、まだ私の姿に気づいていない。

もしかして、今から家で遊ぶのかな?

そうだったら、邪魔しちゃ悪いし、渡したら帰ろうっ。

そう思って、6人くらいいる宗ちゃんの友人たちを見つめたときだった。



「……え?」



思わず、戸惑いの声が漏れる。

その友人の中に――女の人がいたから。

驚きのあまり、宗ちゃんたちを見つめたまま呆然としてしまう。

すると、宗ちゃんがようやく前を見て、私のことを視界に捉えた。



「藍……?」



私を見つけた宗ちゃんもまた、驚いた様子で目を見開いている。



「どうして来たの?」



駆け寄ってきた宗ちゃんの、まるで迷惑そうな言い方と表情に、胸がぎゅっとしめつけられた。