池田くんに全く悪気がないことは、無邪気な笑みから伝わる。でも、私にとっては戯れるように追いかけてくる池田くんが恐怖でしかない。

近づいてくる手に、失礼だけれどぞっとしてしまう。

さっきまではみんな一定の距離感で話していたから平気だったけど、パーソナルスペースを踏み越えられ、“怖い”という感情が一気に湧き上がった。


「や、やめてっ……!」

「なんだよ、いーだろ腹くらい」


ついに、池田くんの手が私の腕をつかんで、もう片方の手がシャツをつかむ。

つかまれた箇所から鳥肌が立っていく。恐怖で声も出なかった。

反射的に、目を瞑る。

助けて、お兄ちゃん……っ……!

――バシッ!


「っ、いって……!」


痛々しい音とともに、池田くんの手が私から離れた。

……え?

恐る恐る目を開くと、私の目の前には、見たことのある背中が。

それは、今朝私を送ってくれた人のものだった。