「は、はぃ……」


今にも消え入りそうな声で返事をすると、彼……瀬名さんは部屋を出ていった。

全身の力が抜け、その場にしゃがみ込む。

よ、よかった……じゃない……!

ま、まさか初日に、よりにもよって同室の人にバレるなんて……!

ど、どうしよう……とりあえず、瀬名さんが帰ってくるまでに用意して、出ていこう……!

リビングとは別に、個人の部屋があるらしい。

キッチンも広々としたものが備わっていて、きちんとしたマンションのような作りだとお兄ちゃんから説明を受けていた。

私は室内のいくつかある扉を順番に開けて、お兄ちゃんの個室を探す。

寮内には大浴場があるそうだけど、ちゃんと部屋にもお風呂がついているらしい。

ここは……洗面所か。えっと、ここは……あっ、このポスター、お兄ちゃんの好きなバンドだ……!

もし万が一違ったら申し訳ないと思い、慎 重に見回して確認すると、やっぱりお兄ちゃんの部屋で間違いないことがわかった。

事前にもらっていた時間割表を見て、今日必要な教材をカバンに詰める。

急いで支度をすませて、そーっと502号室を抜け出した。