そのまま、クイッと持ち上げられて、強制的に視線を合わせられる。じっと、見下ろすように見つめられ、ごくりと息を呑んだ。


「お前……白川日奈太じゃねーだろ」

「……っ」


お兄ちゃん、お母さん。

ごめんなさい……早速バレてしまいました……。

もう、私に明日はないみたいです……。


「あ、あの……」

「……」

「わた……お、俺は……」


絶体絶命のピンチに、言い訳も思い浮かばず、もう終わった……と諦めたときだった。

――コン、コン、コン。


「嶺ちゃ……じゃなくて、瀬名くん、いますか~?」


部屋の扉をノックする音とともに、聞こえた女の人の声。

一瞬女の人……?と驚いたけど、どこか大人びた声だったので、教員の人なのかもしれない。


「チッ……こんな朝早くから何だよ」

「ちょっと資料作るの手伝ってほしいの、お願い~!!」“瀬名くん”と呼ばれたその人は、面倒くさそうな表情をして、私の顎に添えていた手を離した。

「……ちょっと出てくる。お前、ここで待ってろよ」


本人にその気があるかどうかはわからないけど、私には脅しにしか聞こえなかったその言葉。