腹黒王子さまは私のことが大好きらしい。



新川先輩は残念そうにそう言って、「はぁ……」とため息を吐く。

一方京ちゃんは、それにピクリと眉をひそめて、怪訝そうな表情をして口を開く。



「……乃々、そいつから離れて」



その言葉はいつもの優しいものではなく、命令するような言い方だった。

それが少し怖くて、従うべきだとわかっているのに判断力を鈍らせる。



「京、ちゃ……」

「早く。こっちにおいで」

「……っ」



痺れをきらしたような声に、今度こそ身体が動かなくなった。

京ちゃん、どうして怒っているの……?



「俺の言うことが聞けない? ……教室で待っててって言ったのに」



あっ……。

さっきのことがあって、京ちゃんとの約束を忘れていた。

そっか、だから怒って……。



「それとも、その男が乃々のこと誑かしたの?」




京ちゃんの言葉に、私は慌てて首を左右に振った。