腹黒王子さまは私のことが大好きらしい。




頭の中がぐちゃぐちゃで、胸は締め付けられているように痛くて、潰れてしまいそうだった。

もう1秒もこの場にいたくなくて、スッと立ち上がる。



「え、乃々ちゃ……」



新川先輩の声を無視して、逃げるように走り出した。

走って走って、行き先もわからずに走った。

とにかくあの場にいたくなくて、早く1人になりたくて……。

それなのに、走り出して1分も経たずに、がしりと腕を掴まれて足を止められた。



「……っ」

「捕まえた」



すでに息が上がっている私とは反対に、少しも呼吸を乱さず、にっこりと笑っている新川先輩。

先輩は私の腕を掴んだまま、顔を覗き込んできた。



「泣いてるの?」



きっと今、私の顔はぐちゃぐちゃだ。

心配そうに見つめてくる新川先輩に悟られたくなくて、手で顔を隠す。

それでも、気持ちとは裏腹に心の声が溢れ出す。