少しだけ、安堵してしまいそうな自分がいた。
けれどそれは一瞬で、
「女の人?」
「ううん、男の人だよっ」
すぐに、俺の中に渦巻いた真っ黒い感情。
「…………男?」
顔も知らない相手の男を、殺したくなった。
俺以外の男が乃々のそばにいたという事実に、爪が掌に食い込むほどきつく手を握りしめた。
乃々が俺以外の……しかも、男の名前を寝言で呼ぶなんて……。
乃々は、そいつの夢を見ていたのか?
夢に見るほど……親しい関係なのか?
ああダメだ、怒りで笑顔が保てない。
新川和己……どこの馬の骨だ、俺の乃々に気安く近づくだなんて……。
嫉妬で、頭がどうにかなりそうだ。
「……ねぇ乃々、俺、前からずーっと言ってるよね? 男はみんな危なくて怖い生きものだから、近づいちゃダメだって」
もうずっと。ずっと前から、言い聞かせていた。