乃々が突然、俺に抱きついてきたのは。
わざと空けていた距離が、完全にゼロになる。
「京ちゃん、大好きっ……」
ぎゅっと抱きつきながらそう言った乃々に、全身の血がドクリと騒ぎ出した。
待……って……それは、ヤバい……っ。
ただでさえ我慢しているというのに、今それをされたらまずい。
乃々から離れろと、俺の頭が警告している。
けれど、乃々は離れる気はないらしく、俺も乃々の手を振りほどくことはできないでいた。
乃々の“大好き”が、俺の好きと同じ意味ではないことくらいわかっている。
いつも満面の笑みで口ぐせのようにその言葉を口にする乃々が、愛しい反面苦しくもあった。
あー……ヤバい、呼吸が変になってきた。
乃々から漂うシャンプーの香りも、小さな身体から伝わる体温も、そのすべてが俺の欲望を刺激する。
乃々のすべてに煽られて、おかしくなりそうだった。
なんとか喉の奥から声を振り絞る。
「……俺も乃々が大好きだよ」
いつも乃々にそうしているように……深い意味にとられないように、ポーカーフェイスを保つ。