近くて遠い私たちは。

 心底悔しかった。

 ーーあの鈍感色欲男めっ! 私がここまで努力してるのに、何で気付かないの!?

 仮にも一度はちゃんと告白してるのに。

「……ックシュっ!」

 カツカツとヒールを鳴らし、陸橋近くまで歩いた所でぶるっと体が震えた。

 ーーさ、寒い。

 カッと腹を立てて部屋を飛び出したものの、三月の夜は予想以上に冷えた。コートを着て出歩かないと呆気なく風邪をひいてしまう。そうしたらまたサクに馬鹿にされる。

 ーー仕方ない。帰るか。

 踵を返し、来た道を戻ろうとした所で「ねぇねぇ」と急に肩を叩かれた。

「お姉さん一人? そんな薄着で何してるの?」

「え…」

 ドキン、と鼓動が打ち、嫌な予感が胸中に広がった。ダウンジャケットを着た、いかにも軽そうな男の子が一人。見たところ同い年ぐらいだろうが、そんな事はどうでもいい。状況から判断して、ナンパかもしれないと思った。

「良かったらすぐ近くに店あるし、一緒に飲まない? 何か訳ありみたいだし」

「け、結構ですっ。今から帰るところなので!」

 私はその男の子に背を向けて、足早に帰路を進んだ。

「えー、待ってよ、何かつれなく無い?」