「これ届けにきた」



自意識過剰なことを考えた私をよそに、葉月くんが差し出したのは一冊の本のような物。



「こ、これ……?」


「台本」


「あの、台本って……文化祭の劇の?」


「台詞覚えるなら早い方がいいでしょ?」



確かに葉月くんの言う通だ。

長い台詞があるのなら、なおのこと早い方がありがたい。


受け取った台本をパラパラ捲ると、小鳥役の台詞を見つけた。



小鳥:ちゅんちゅん

以上である。


……これ、台本いる?



「木ノ下も心配してた」


「えと……咲希ちゃんにはメッセージ返したよ」



たったの二日会っていなかっただけなのに、久しぶりに葉月くんの顔を見たように思う。


相変わらず、放課後でもボサボサ頭にメガネなんだ。



「それ、羽澤?」



おもむろに玄関の靴箱の上に飾られている写真立てを指さした。



「え?あ……うん。私……」



小学校の運動会の時の写真だ。

咲希ちゃんの隣でにっこり笑う幼い私。



「葉月くん、わざわざありがとう……」



あまり見られたくなくて、早口でお礼を伝えた直後。


くらっと視界が歪んで、身体の力が抜けた。



「羽澤?」