私の隣の席の葉月 湊音(はづき みなと)くんは、分厚い大きなフレームのメガネをかけていて、黒い髪はいつもボサボサで、歩く時は猫背。


長い前髪で目元が隠れている上に下を向いてばかりだから、ハッキリと顔を見たことは一度もない。


そして葉月くんが誰かと話しているところを見かけたことはないし、クラスでも常にぼっちだ。



私、羽澤琴莉(はざわ ことり)は、ずっと葉月くんを観察してきた。


担任の先生は「席替えは年に一度だからな!」という主義で、まだ席替えは行われていない。


高校に入学して、もう夏休みが明けたっていうのに、葉月くんの様子はなんら変わらない。


……だけど、ホントは絶対に裏があると思う。



「んなわけないでしょ。どんな裏があるって言うのよ?陰キャ総選挙第一位に選ばれたってのに」


「しーっ!き、聞こえちゃうよ!」



私の隣の席なんだから!


今はお昼休みだから寝てるみたいだけど……。


それに総選挙は入学してすぐの頃、クラスの人が勝手にやったもので。


幼稚園からの親友、木ノ下 咲希(きのした さき)ちゃんは、やや呆れ顔でパックのジュースに口つけるとぐびぐび飲み干した。


オヤジか……。



「だいたい琴莉は、いつまであの葉月を観察してんのよ」


「だ、だって怪しいと思わない!?」



それにはちゃんと理由があるので、是非嫌な顔をせずに咲希ちゃんにも聞いてもらいたい。