ここで出される料理はどれも天下一品だと、優莉は常々思っている。
優莉がクールブロンへ入社したいと思ったのも、食べた料理があまりにもおいしかったから。優莉の大学入学祝いで母親が奮発して、クールブロンで本格派のフレンチディナーを食べさせてくれたのだ。そのときの味は今でもよく覚えている。
ふたり組の客から日替わりの注文を受けて厨房に伝えると、明日美がそばに寄ってきた。
「昨日の社長とのデートはどうだったの? 私、昨日夜遅くまで優莉からの報告を待ってたんだけど」
小声で苦情の申し立てだ。
優莉が隼とデートするのは、クールブロンの社員全員が周知の事実。同じ店に勤める仲良しの明日美には、当然ながらそれが昨日だったのも伝えている。
「ごめんね。すごく疲れちゃって、お風呂に入ってすぐに寝ちゃったの」
ただでさえよく知らない隼との慣れないデートのうえ、撮影付き。猛ダッシュを二本も決めればくたくたになるのもあたり前だろう。
昨日は宇賀から逃げるようにして水族館を出た後、おいしいパティスリーを何軒かはしごしてから隼にアパートまで送り届けられた。



