隼にプロポーズされたのは、まだほんの二週間前の話。来週末に優莉の親に会い、正式に婚約をしてから社内に公表しようとふたりで話し合って決めていた。
一般社員の優莉が〝社長からいただきました〟とお金を出すのは、ちょっと不自然だ。

隼は渋々といった様子で自分の財布にお金を戻した。


「帰りは迎えに行くよ。場所は?」
「やっ、ダメですってば。隼さんとのことはまだ内緒なんですから」


隼の了承をもらい、ふたりの関係を話したのは明日美だけ。隼が迎えに来たら大騒ぎどころではなく、パニックになるだろう。明日美ですら驚きぶりは異常なほどだったのだから。何度も『嘘でしょ! 嘘だ! なんでー!?』と、しばらく優莉でも宥めるのにひと苦労したくらいだ。

それでも最後には『おめでとう。幸せになるんだよ』と言ってぎゅっと抱きしめてくれた。


「ダメ出しばかりだな」


隼が不満そうに眉根を寄せる。


「仕方がないじゃないですか。隼さんは普通の人と違うんですから」
「変人みたいな言い方はよせ」