ミニョンミネットの問題が公になった後、榊原は恥を忍んで隼を訪ねてきた。内部告発をした人間は、どこでも疎まれるもの。病気の母親を抱えているため、やむにやまれず隼を頼ってきたのだ。

シェフからの再出発ではなく見習いからにしてほしいという彼の謙虚な姿勢と、真っすぐな目を信じてみたくなった。


「では、早速彼らに連絡をしてみます。おそらく社長に直接お礼を言いたいという申し出があるかと思いますが」
「その必要はない。礼は仕事で返せばいいと伝えてくれ」
「承知いたしました」


では、と立ち上がりかけた大久保を引き留める。


「俺からもひとつ報告があるんだ」


腰を浮かせた大久保だったが、再度ソファを沈ませた。


「結婚しようと考えてる」
「結婚!? 社長ご自身がですか!?」


体全体を弾ませからソファにそっくり返る。
脳天から突き抜けるような甲高い声で聞き返され、逆に隼の方がびっくりした。