「隼さん!」
優莉が悲鳴に近い声を上げた瞬間、どういうわけか高村は地面に膝を突き、「くっ!」と声を漏らした。手を捻じ曲げられ、隼に押さえつけられたのだ。
あまりにも早業で、見ていたはずの優莉にはなにが起きたのかわからなかった。
すぐさま警備員が駆け寄り、隼に代わって高村を拘束する。
「自分のしたことをよく考えるんだな。悪いが、高村は俺のライバルにもならない」
高村を非情に見下ろす隼の目には静かな怒りが滲んでいた。
優莉も、店からシェフが引き抜かれているのは知っていたが、食品偽装や異物混入については初耳。あのミニョンミネットがそんな状況に陥っているとは思いもしなかった。
警備員に連行されていく高村はがっくりと項垂れ、その目は虚ろ。歩く足取りもおぼつかないようだった。
「優莉、大丈夫だったか?」
階段を素早く上がってきた隼が優莉の顔をまじまじと見つめる。



