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真っすぐ帰る気持ちになれず、あてもなくひとりで街をぶらついてからマンションの近くまで優莉が帰ってきたのは、午後十時まで間もなくという時刻だった。
隼は今夜もおそらくホテルだろう。ここへは帰ってこず、ソフィアと一緒に違いない。
そう思うと余計に足が重くなり、どんどん足取りが遅くなる。
そうしてマンションの前までやって来たときだった。エントランスへ続く階段のそばで動く人影が、優莉の視界の隅に映る。なんとはなしに見て、それがミニョンミネットの高村だと気づいた。
「あれ? キミ……」
こんなところでなにをしているのだろうか。
会釈で返しつつ、足を止めた。隼との関係性を聞かされているため、どう対応したらいいのか困惑する。
「霧生と一緒に住んでるんだ?」
「あ、いえ、その……」
優莉が返答に困っていると、高村はなにかを思いついたかのように距離を狭めた。



