「ずっと留守にしていたから優莉とゆっくり過ごしたいけど、オープンまでは彼女にかかりきりになると思う」
「……ソフィアさんですか?」
「うちのメニューとの擦り合わせもあるからね。オープンまで時間がない」


隼は優莉の質問にうなずいてから答えた。

オープンは明後日。本当に時間はない。フランスで三ツ星レストランのシェフをしていたとはいえ、クールブロン全店共通のメニューもある。隼の言うように彼女との調整が必要だ。


「もしかしたらオープンまでマンションには帰れないかもしれないから、それは罪滅ぼしの前払い」


そう言って隼がいたずらっぽく笑う。


「わかりました。がんばってくださいね。あと、あまり無理はしないでください」


ここで寂しいからと自分の気持ちを押しつけて駄々をこねるわけにはいかない。隼が望むのは、そんな子どもっぽい反応ではないだろう。


「サンキュ。無事にオープンを迎えたら、ゆっくりしような」


隼は優莉の頭をポンと撫で、最後に抱きしめた。