「隼さん、これ、バレンタインデーのチョコです」
「俺に?」
紙袋から取り出してテーブルに置いた包みを隼がうれしそうに手に取る。
「隼さん、いえ、社長には本当にお世話になりました」
もう名前で呼ぶ必要もなくなる。優莉が社長と呼びなおすと、隼の顔から笑みが消え眉をピクッと動かした。
「どういう意味?」
「じつは今日、アパートの管理会社から連絡があったんです。次に住むアパートを敷金礼金なしで準備してくれるそうで、火災保険が下りたから、その一部を私にも振り込んでくれたみたいなんです」
「だから?」
隼の目が見る間に鋭くなっていく。どうしてそんな顔をするのか優莉にはわからない。きつく問いただされているような感じがして居心地が悪くなる。
「……マンションを出ていこうと思います。それはほんのお礼のしるしです。あ、もちろん、お借りしたお金はきちんとお返し――」
「出ていく必要はない」



