仕事から帰ってきた父親を出迎え、ひとり晩酌をする彼の話を聞くのは、優莉の密かな楽しみだった。店での出来事や料理の話、どれも興味深く、優莉がおいしいものに幸せを見出すようになったのも父親の存在があったからだろう。
当時聞いた話の向こう側に隼がいたのかと思うと、とても不思議な気分だ。
「おいしいものは世界を救うって、宮前さんがよく言ってたよね」
「そうなんです。父の口癖だったので私も」
隼の口から何度か出てきたその言葉が、父のものだとは想像もしなかった。
「いっとき宮前さんの口癖が俺にも移っていた時期があったよ」
優莉の父親は、十年以上も前に隼と出会っていたのだ。話に出てきた登場人物の中に隼がいたとは。
奇跡のような巡り合わせに心を揺さぶられながら順調に料理は進み、水菓子に美しい和菓子が運ばれてきた。真っ白な寒天に真っ赤なソースがリボン風にかけられた一品。ちょうどプレゼントボックスのような見た目がかわいらしい。
それを食べているうちに、隼にバレンタインのチョコレートを用意していたのを思い出した。



