「花崎さんは異動したてでそれどころじゃなかったでしょう? 気にしない気にしない。そのかわりホワイトデーはお返しを期待しちゃお」


春香の優しい気遣いに救われる。


「はい、任せてください!」


調子に乗って答えて椅子に腰を下ろすと、置きっぱなしにしていたデスクの上で優莉のスマートフォンがヴヴヴと鳴っているのに気づく。アパートの管理会社からの着信だった。

急いで事業部から通路へ出る。


「もしもし、花崎です」


耳にあてて優莉が応答すると、相手もすぐに名乗り続けた。


『火災に関する保険手続きが済みまして、花崎さんにも大変ご迷惑をおかけしたので、わずかではありますが家賃引き落としの口座に二十万円の現金を振り込ませていただきました』
「えっ、そうなんですか。そんなにたくさん……。ありがとうございます」


現金支給があったらいいなとは思っていたが、そこまで高額を期待していなかった。