「それじゃ、なるべく早くお願いね。それで結婚式は?」


佳乃はどうやら、かなりせっかちなタイプのようだ。次から次へと結婚に突き進む話で畳みかけられ、優莉はもはや限界。どうにも太刀打ちできる相手ではない。


「それもちゃんとするから。母さんはどっしりと構えていてくれていいから」
「だって、いきなり婚約者になるような相手ができた割に話をきちんと煮詰めていないんですもの。心配になっちゃうのよ」


痛いところを突かれ隼もぐっと言葉に詰まる。
ふたりの結婚を信じて疑わない佳乃を前にして、優莉はどんどん胸が苦しくなっていく。こんなに優しい人を騙していいのだろうかと、胃のあたりがキリキリと痛い。


「とにかく母さんは心配しないで。俺がしっかりと進めていくよ」


優莉は隼の偽りの婚約者。それなのに隼の言葉が真実味を帯びていて、優莉の心を惑わせる。ようやく納得した佳乃は中華丼をぺろりと平らげた。


「いろいろと決まったら教えてちょうだいね」